取組事例

内と外が交わる玄関口に。「本と美容室 萩店」庭修景プロジェクト

 

萩市浜崎地区にアタシ社の美容室とセレクト書店の複合型店舗

「本と美容室 萩店」が2号店としてオープンしました。

この場所は、江戸~明治期の城下の港町を形成した建物が多く残るエリアで、

国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定された情緒ある街並みです。

今回は、そんな江戸期の風情を残しながらも新しさが入り交じる町での新店舗オープンに伴い

店舗奥に広がる庭空間の設計を担当いたしました。

 

 


アタシ社が店舗づくりで大切にしていたのは

「内外の人同士を繋ぐ空間であること」「地元の人も行きやすい場所であること」でした。

そして訪れた人に「自分を知るきっかけとなるような本と美容の提供をしていきたい」

という想いがありました。


設計においてその想いを組み込むべく重視したのは

『多様な人々が思い思いに過ごせる「居場所」づくり』でした。

この庭を象徴する構造物として、パーゴラと一体になった均一でない形状のベンチを提案することで

それぞれの過ごし方に合わせたお気に入り(=拠り所)を見つけられるようにしました。


「緑と木の拠り所で自分の時間をゆったり過ごす庭」というコンセプトのもと

メイン素材には萩の木材の中でも温かみがあるスギを採用。

構造材やウッドチップとして活用することで、地域の森の循環にも貢献します。

 

パーゴラベンチの柱に添わせるように植えた蔓性植物のフジやモッコウバラは

やがて天井を覆うように成長し、森の中のような柔らかな木陰を作り出してくれます。

また、シンボルツリーの成長やウッドチップの色の変化などもこれからできる空間に変化をもたらします。


施工では、駆体を南崎地所が、造園を伊藤造園にご担当いただき

木材の防腐塗装などはアタシ社とともに行い、思い入れの深い施工となりました。


完成した庭は、四季折々の変化を魅せる植栽やウッドチップからの香りが心地よく

余白(可変性)のある構造と庭の緑、そして遠くに見える萩の山並みが一体となり

個々にゆったりと過ごせる空間になりました。

この場所で多くの新しい発見や出会いが生まれることを願っています。

 

 

施工 | 南崎地所

造園 | 伊藤造園

設計・木材コーディネート | 萩・森倫館 

 

ご依頼いただいたアタシ社様により詳しく、インタビューしてみました。

インタビュー

アタシ社「本と美容室」事業代表 ミネシンゴさんに、
今回「本と美容室 萩店」ができたきっかけや、新店舗への思い入れ、
この庭に求める役割・想い、理想的な風景など詳しくお聞きしました。

 

▲「本と美容室」事業代表 ミネシンゴさん

ミネシンゴさん PROFILE
1984年生まれ横浜市出身。東京、神奈川で美容師を経験した後、
髪書房にて月刊Ocappaの編集者に転身。
退社後リクルートでホットペッパービューティーの営業企画を経て出版社アタシ社を設立。
現在は編集を軸に、美容、ローカル、場作りの活動をしている。

 

──アタシ社が萩と接点を持ったきっかけは

萩市ビジネスチャレンジサポートセンター「はぎビズ」の獅子野センター長からの1通のメールでした。

アタシ社がやっていた取り組みを知って「ぜひ浜崎に来てほしい」と獅子野氏の熱い想いに触発され、萩を訪れたことが始まりでした。


店舗をオープンするにあたり、

施工はその地域のことをよく知っている人にお願いしたいという思いがありました。

地域の文脈を建築に取り入れ、かつオープン後もこの地域を盛り上げていく仲間として

関係性を継続できると考え、萩・森倫館にお声がけしました。


萩・森倫館との庭づくりは、柔軟に話しができ

こちらの「やりたいこと」を汲み取り、形にしてもらえたと感じています。

また、未完成な部分を取り込んだことで

できた後も作った人や素材が語るものが生まれました。

庭の使い方や目的は、お客さんそれぞれが定義してくれるのだと思います。

 


当初、「思わず外にでたくなる庭、美容室に入った人が

切ったあとも外で寛いで時間を過ごしたくなる場所」

というような庭のイメージがありました。

店側が無理やり繋ぐのではなく、

そこにいた人たちが自然と繋がって声をかけあうような

風景が生まれることを期待していました。


実際できた庭は、縁側から見る景色が一番のお気に入りで、

そこに座ると全体が見え、一緒にやった工程が思い起こされます。

ベンチが均等な形ではないからこそ、

多様な価値観を持つ人が交われる風景を作れたと思います。

 


今後は、マルシェ、かむかふナイト、ブックイベントなど、

庭を使ってみたい人ともなにか企画したいですね。

町の公園のように、目的は運営側ではなく、

来た人が作り出す場にしたいと考えています。

(インタビュー以上)

 

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